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歴史上「最悪」の職業 ~後編~

      2017/10/14

後編では前編より時代が進み、科学技術が進歩によって出現した最悪の仕事や、歴史上の全ての仕事の中から栄えある?ワースト1の職業を紹介したいと思います。

●硝石集め人

世界の三大発明というと「火薬、羅針盤、活版印刷」が挙げらますが、その世紀の発明品である火薬を作る原料は3つの物質から作られます。それが、硫黄、木炭、そして硝石です。

(燃焼した火薬と銃)

日本は火山列島で火山や温泉がある所には硫黄が豊富にありますので硫黄は比較的入手が可能でした。そして、木材から木炭は容易に作り出せます。そして最後の硝石。これは日本では鉱物として入手できないために火縄銃が作られた当時は日本は中国や東南アジアから輸入をしていました。

その後、江戸時代の鎖国体制の中で硝石の国産に成功し、世界遺産の「合掌造り」集落で有名な飛騨の白川郷や加賀の五箇山など、人里離れた孤立した集落で硝石づくりが製法極秘の元で生産されるようになります。

この硝石を鉱山などから採掘できない国は自ら生産する必要があります。イギリスも例外でなく、戦争用の鉄砲や大砲の大切な戦略物質として国家の管理のもとに硝石は生産されました。この硝石生産を担当したのが「硝石集め人」です。

硝石は硝酸カリウムを含んだ鉱石です。そして硝酸カリウムを含んだ身近にある物質とは「糞尿」です。ですから糞尿がよく染み込んで濃度が濃い場所が彼らの原料採集地です。つまり、便所の床にしみこんだ土、豚小屋の土、鳩小屋の堆肥などを集めるのが彼らの仕事です。

(16世紀のドイツでの硝石作りの風景 とにかく土)

硝石がどの土により多く含んでいるのかを簡単に見分ける方法があって、それは「味見」でした。尿がたっぷり染み込んだ土にはナトリウムが多いためにしょっぱいわけです。また、水に対して吸熱反応を起こすので舌にのせると泡と共に冷たさを感じます。硝石集め人は土を味見することで良い土壌かどうかを判断していたそうです。

1625年には尿から直接硝石を抽出できる画期的な方法が開発されたということで、ロンドンでは毎日一家の尿を瓶に入れてまとめて家の前で回収するという方法が採用されました。

まるで牛乳配達みたく硝石集め人は尿の入った瓶を家々から回収するなどしたのですが、この画期的な抽出法が実は使えない代物だとわかりわずか2年で中止となりました。笑えない笑い話ですね。

この硝石集め人は人々に非常に忌み嫌われた職業でありました。というのも、硝石は当時前述したように火薬を作る大切な戦略物資であったので国王の庇護のもと勝手に他人の家に入り込み地面を掘ることが許されていたからです。突然家に来て無断で便所や鶏小屋、ハト小屋を掘り返し後片付けをすることもなく去っていくので人々からゴロツキ呼ばわりされていたそうです。

どのくらい嫌われていたかというと、例えば住民によっては便所の床を土ではなく石で覆って土壌を採取できないように硝石集め人対策をするなどをしていたそうです。また、彼らの収入は臭い便所の土を掘り返し、味見をし、住民の罵声を浴びながらその土を運ぶというキツイ肉体労働にも関わらず農民以下の低賃金であったそうです。ちょっと・・・可哀想ですよね

ちなみに日本の白川郷や五箇山でも深さ数メートルの巨大な便所があって住民はそこで糞尿をしていたそうです。現在でもその硝石用の便所の跡を見学することができます。

●爆破火具師助手

この仕事は簡単に言えば爆弾運びの仕事です。城門を堅く閉ざした城郭や要塞を攻略する際に城門や城壁を爆破して破壊する爆弾を運ぶのが仕事です。

(火薬の登場以前は破城槌という兵器で城門を破壊した)

攻城戦において爆破火具師助手の役割は非常に重要です。したがって攻撃側は護衛の兵隊で厳重に援護するのですが、守備側としても最優先で排除すべき対象となるために任務中に死傷する確率が非常に高い危険な仕事でした。

城門にたどり着いた後、抱えた爆薬を鈎で城門に取り付けて導火線に点火して爆破します。ただ、爆薬を運んでいる途中に誤爆する可能性も高くシェイクスピアのハムレットなどにも自らの爆弾で自爆する危険性を示唆したセリフがみられます。

爆弾を仕掛けた後はただ逃げればいいというものではありません。爆発後は指向性の爆風が前だけでなく後ろにも押し寄せるので、点火後は真後ろではなく斜め方向に逃げなければ爆発の被害に巻き込まれたそうです。いずれにせよ非常に危険な作業なので通常の神経では行えず、気付け薬として相当酒を飲み酔った状態で仕事に従事する人もいたそうです。

日本でも太平洋戦争末期に爆弾を抱えたまま神風特攻隊が敵艦隊に突撃しましたが、それに近いような任務です。航空機だけでなく硫黄島や沖縄では守備兵が対戦車地雷を持ったまま戦車に突撃して自爆する話がありますが、そんな旧日本軍に比べたら生きて生還する可能性があるだけ、彼らの仕事はまだマシなのかもしれません。

(1000年後の「最悪の仕事の本」に帝國海軍の航空隊が掲載されるかも?)

●死体取り調べ人

死体取り調べ人はペストなど疫病が発生したスチュアート朝時代の職業です。死体を調査するのが仕事で、亡くなった死者の死因が疫病なのかその他の理由なのかを判断します。

もしペストなどの疫病であった場合は、その家は封鎖され40日間の間、医師と取り調べ人以外は出入りが許されない状態にされたそうです。まあ、他の言葉で説明すれば疫病感染防止人と言っても良いかもしれません。

(ペストを診察する医師 こんな医師が来たら治る病気も治らないだろう。マスクは感染防止の為)

これだけ説明すればわかりますが、疫病に感染するする危険性が高いために当然なりたがる人はいません。従って、教会から施しを受けてなんとか生活していれる女性などが仕事を引き受けていたそうです。ちなみに断れば教会は施しを打ち切る為に実質強制といっても過言ではないです。給料は死体一つの検査に付き4ペンス。多いのか少ないのかよくわかりませんね。

この当時のペストの猛威は凄まじく1665年には8月だけでロンドンで3万人の死者がでるほどでした。この年の一年間でロンドン市民の3割が亡くなったそうです。1965年当時の人口はwikiによると41万人ですからわずか1ヶ月で3万は途方もない数値です。

なお、死体の調査は一見すると疫病に感染する可能性があり非常に危険な仕事のように感じますが、死者からの感染の可能性は意図的に感染しようとしない限り殆どないそうです。調査人はそんなことを知らず、ビクビクしながら遺体を検査していたことでしょうね。

(ペストによる被害で死体の山が出来たマルセイユの様子)

遺体検査より実はよほど危険だったのは生き残った家族からの聞き取り調査です。感染している家族と会話することで、調査人も疫病に感染する可能性がありました。

当時の人はペストに空気感染することを恐れて硫黄を焚いて空気を洗浄したり、タバコを吸って感染することを防止しようとしたそうです。(タバコに細菌の除菌作用のようなものがあると信じされていた)

パブリックスクールの名門イートン校の生徒は「タバコを吸ってないと罰せられる」など、現在の日本の高校生の不良が聞いたら驚くような感染対策をしていたようです。

◆歴史上最悪の仕事

さて、ロビンソンの「最悪の仕事の歴史」の本文には時代区分ごとに各時代の最悪の仕事と、英国史上を通じてのワーストオブワーストの最悪の仕事を紹介しているのですが、各年代別と史上最悪の仕事は実はある共通点で結ばれているために、ここでは全て一緒に説明してみたいとおもいます。

まず、歴史上最悪のワースト1の仕事、それは「タナー」です。日本語訳は「皮なめし人」です。動物から剥いだ生の毛皮を、皮革職人が加工して使えるように動物の皮をなめす仕事です。そして、各年代別の最悪の仕事は中世が「縮絨職人」チューダー朝時代が「青染め師」です。

この2つの仕事を説明すると「縮絨職人」は羊毛であるウール生地をより質の良いものに仕上げるため洗浄して圧縮するのが仕事です。そして「青染め師」はその名の通り青い染料を使って布地などを青く染め上げるのが仕事です。

なぜこれら3つの仕事をまとめたかというと、3つとも共通点がいくつかあって一つには全て「服飾関係」の仕事であるということです。皮はカバンやブーツなどの素材ですし、羊毛はウールとしてセーターなどの素材、青は衣服の染料として使われます。

(青色に染められた圧縮ウールと腕の部分に革を使ったスタジャン。最悪の仕事が結集された珠玉の逸品)

したがってこれら全ては服飾関係の仕事であり衣食住の中で「衣」に該当する人々の生活に非常に欠かせない大切な仕事であるということです。そんな彼らの仕事がなぜ最悪の仕事であったのか。それは全てに共通していることは「臭い」です。

●縮絨職人(羊毛製作職人)

中世で最悪の職業ワースト1の栄冠に輝いたのが「縮絨職人」です。縮絨職人の仕事は羊の毛に含まれる脂を除去する為の「洗浄」と羊毛が毛羽立ちしないように「圧縮」する作業が主な仕事です。

縮絨という言葉にはピンとこない方もいると思いますのでわかりやすく説明するとフェルト加工のことです。例えばPコートやダッフルコートのウール生地って「メルトン」とか呼ばれる圧縮した羊毛で出来ていますよね。つまり羊毛を圧縮して板状のフェルト生地を作り出す作業が縮絨職人の仕事です。

(フェルト生地 手編みの編み物的な雰囲気は一切ない)

羊の脂を洗浄するには現在でも油汚れには石鹸が用いられているようにアルカリ性の溶液が一番効果があります。そして身近にあるアルカリ性の溶液とは・・・・「尿」です。そして、圧縮作業の一番簡単な人力の方法は「足踏み」です。

つまり縮絨職人の仕事は人が入れるような大きな桶に尿をいれて、その中に羊毛を入れて浸し、ひたすら上から足踏みするのが仕事です。足踏みする時間はおよそ7時間近くになります。それも適当に足踏みすると生地にムラが出来るために、注意深く均等に圧力をかける必要があったようです。

仕事内容を簡潔に要約すると「尿に浸した羊毛を7時間踏み続ける」というのが彼らの仕事になります。肉体的にも精神的にも負担が多い作業で具体的には水車などが発明されると最初に機械化された作業の一つがこの縮絨作業と言えばどのくらいキツイ仕事であったか想像がつくかと思います。

なお、尿の脂肪分の洗浄力は素晴らしく、足踏みして数分で脂肪分が除去されていくようなので効果としてはてきめんであったようです。

当時の人は当然知っていたのでしょうが、彼らが日常着るウール製品は全て尿で洗浄されていたということですね。現在では尿・・・は流石に使われていないでねしょうね(笑)

●大青染め師

続いてチューダー朝時代の最悪の仕事、それが大青染め師です。青色の染料と言えば現代ではジーンズでお馴染みの藍染めことインディゴが有名ですが、そのインディゴが東洋からもたらされる以前、英国では16世紀までは「ホソバタイセイ」という植物を利用して青色に染めていました。

(ホソバタイセイ 以前は日本の菜の花畑のように英国では一面咲いていたそうです。なお青色を抽出するのは花でなく葉っぱです)

そのホソバタイセイの何が問題かというと、ホソバタイセイから青色を抽出する過程で非常に悪臭が発生したことです。そのあまりの臭さに大青染め職人は社会的に公には受け入れられない集団となりました。糞尿の回収人と同じ様に社会の底辺の仕事でありました。

糞はにおいの他に汚いので社会的に嫌われるのはわかりますが、臭いだけで同等の扱いを受けるとなると相当臭いのでしょう。

具体的な臭さとしては悪臭の化学成分の分析結果が出ており「下水と腐ったキャベツを混ぜた臭い」「人間の糞から放たれるガスと同じ成分が含まれている」ということです。

イマイチ、イメージが湧かないのでピンとこないのですが、その悪臭は凄まじくエリザベス女王は青染め師のいる街を通過する際に彼らに対して「仕事を完全に休業せよ」と命令しさらに滞在先から5マイル(8キロ)以内の侵入を禁止したと言えばどのくらい酷い臭いが漂うか想像できるかと思います。

臭いってそんなに漂うの?と疑問に思うかもしれませんが、例えばスカンクのオナラは分泌した場所から周囲2キロの範囲で驚くべきことに1ヶ月近く臭い続けます(スカンクを轢いた車は臭いが取れないから中古車として売れない程です)

また、製紙業が盛んな街を訪れた経験があればわかりますが、工場が操業中は高い煙突で臭いが拡散するように排煙していても街全体が異様な独特な臭いに包まれます。恐らく製紙業の臭いの物凄いキツくなった臭いが風向きによって街全体を覆うような感じであったのではないかと想像できます。

(製紙工場 染色も製紙も原料に植物を使い、化学知識を活用することは同じ)

彼らは臭いが染み付き、そして青染めの染料で体が青く汚れていたために、直ぐに青染め職人だと見分けがついたそうです。「人によっては汗まで青かった」と解説に説明されています。従って結婚も同族間の結婚が多かったそうです。

なお、最底辺の仕事だと思われがちですが、染料は最先端の化学の反応技術を用いた技術であり、また染色作業も非常に繊細な作業を求められたものでありました。染料の溶液をアルカリ性を維持したまま3日間50度に保ち続けるなど温度とpH値を適切に管理しなければならなかったそうです。

そんな彼らもオリエントから藍染めの新しい染料であるインディゴがもたらされると徐々に社会から消えていく職業となりました。でもこれは本人にとっても周囲にとっても喜ばしいことであったと思います。

●タナー(皮なめし人)

最悪の仕事の歴史において見事!?英国の歴史上ワースト1の職業に選ばれたのがこの「皮なめし人」です。皮なめし職人は前述の2つの職業と同じく都市の隅に追いやられた嫌われた職業でした。

革はいつの時代でも非常に重要なモノで衣服にしろ馬具にしろ日常の隅々まであらゆる製品に使われました。産業革命においても需要が爆発的に増え、例えば蒸気機関のベルトにしても革が利用されるなど日常生活の必需品でした。

(蒸気エンジンと発電機をつなぐ巨大なベルトが見える)

ちなみに皮と革の違いですが、動物の皮が加工処理される前のものが「皮」で加工処理されたものが「革」と書きます。例えばミンクの毛皮のコートなどに使われる毛皮は表面にミンクの毛が未処理のままの残っているので(それが肌触りを良くして保温性を高めます)毛革のコートーとは表現しません。

逆にベルトや財布などに使われる牛や馬の本革は獣毛を剃られ表面が奇麗に加工されているので革になります。ですから牛皮の財布と書くのは間違いになります。

皮なめしの仕事でまず人々に忌避されたのが臭いです。まあ、だいたい臭いとなるとこれまでと同じく尿糞になるのですが、こちらも想像通りで皮を綺麗にするために、洗浄液の中に犬の糞を混ぜ合わせました。なぜ犬の糞かというと、糞の中に胃の中の消化酵素が残留しており、皮を剥いだ際に残った動物の肉や皮膚を分解するのを助けたからだそうです。

皮なめしには工程に分けてその都度タンニンの液や犬の糞の液などいくつかの洗浄液を使い分けました。そして皮なめしに使う溶剤を温めて使用したので、その地域一帯に温められた溶剤の臭いがプーンと漂ったそうです。

臭いだけでなく、皮なめし作業自体も重労働でした。大きなナイフを使い、ゴワゴワな皮を滑らかな状態するために余分な肉や毛を削ぎ落としたのでそれは大変な作業になったそうです。

(皮なめしの作業 屈んでナイフで擦るので肉体的にもキツイ)

また、剥いだ皮を乾燥させるために火を焚いて部屋の中を乾燥したコンディションに保ちました。その影響で部屋の中に煙と様々な溶剤の臭いが充満したそうです。空気中に漂うバクテリアと煙、そして化学物質が皮なめし人の健康を害し病気にかかりやすい体質になったようです。

著者のロビンソンは日本のことを知っているわけではないですが、日本でも「皮なめし」である「獣皮の加工」の仕事は歴史的にみて同じように最悪の仕事の一つに分類されております。

ある意味歴史のアンタッチャブルの部分なので簡単に触りだけ説明すれば、獣肉処理や皮なめしの仕事は江戸時代の身分制度では士農工商の下の穢多が行うべき仕事として分類されておりました。そういった意味でイギリスのみならず日本でも同じ様な評価を与えられているものだと思いました。

(江戸職人歌合から 狸やカワウソの毛皮だろう)

◆まとめ

最悪の仕事の歴史ですが、基本的に「糞尿」の話が多いなと思いました。なぜ糞尿の話が多いのかを考えてみるとそれは糞尿は汚物であるにも関わらず有能な点が多いからです。

これが例えば糞尿でなく髪とか爪であれば「抜けた髪を溶液に混ぜて洗浄する」なんてことは多少は気持ち悪いですが、臭いもなくて問題ない仕事だと思います。糞尿は肥料なども含めて有用性が高すぎます。そもそも尿がアルカリ性だとアルカリ性が必要な場合は、だいたい身近に入手できる尿が使われてしまうのは仕方がないことだと思います。

史上ワースト1である「皮なめし」は洋の東西を問わず、これほど需要がある重要な仕事にも関わらず世間的に忌避されていたのはちょっと腑に落ちないところがあります。日常生活に必須である非常に重要な職業だけど、臭いので世間的には仕事として認めない・・・・人間はなんてワガママで自分勝手な生き物なんだと思わざるをえません。

需要がある仕事なだけに、こういった職業の人達の給料がせめて医者などと同じように高ければと思います。

そんなわけで前後2回に分けた最悪の職業の歴史でしたがこれでおしまいです。なお、ランクインしなかったけど、面白くて興味を惹く最悪の仕事について番外編で扱いましたのでそちらもよろしければご覧ください。面白いという意味では本編よりは興味を惹く仕事が多いと思います。

最悪の職業の歴史~前編~  → こちら
最悪の職業の歴史~番外編~ → こちら

「参考文献」

 - 歴史上「最悪」の職業決定戦