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中間層の崩壊が世界経済を破滅に導く

      2017/04/13

(ロバート・ライシュ教授 元労働長官)

『みんなの為の資本論(inequality for all アメリカ 2013)』というドキュメンタリーを見た。ロバート・ライシュによるバークレーでの講義を映像化した作品だ。ロバート・ライシュはクリントン政権下で労働長官を務め、ハーバード大教授などを経て現在はUCバークレー校の教授をしている経済学者だ。素晴らしい内容であった。以下は要点のまとめである。

◆ 富の偏在と中間層の役割

1978年、中間層と上位1%の富裕層との平均年収の差は10倍未満だった。(4万ドル→39万ドル)しかし、2010年では30倍にまで広がった。(33万ドル→1110万ドル)

2012年、トップ400人の資産が底辺1億5千万人の資産の合計を上回っている。つまり国民の半分以上の富をわずか400人が保有している状況である。有識者は貧富の差が開いていたのは認識していた。しかしトップ1%で何が起きていたかまでは把握していなかった。最上位の1%が国民所得の23%を占めるという事態にまでになっていた。

1929年の世界恐慌と2008年のリーマンショックは同じ経過をたどっている。両者とも整理してみると「所得の富裕層への一極集中」→「富裕層が銀行や債券へ投資する」→「投機的バブルが発生」→「中間層の人々の収入の伸び悩み」→「大恐慌が起こる」

経済の中で最重要なことは中間層を維持すること。米国経済の70%は個人消費であり、その個人消費の中核をなすのが中間層であるからだ。

それでは中間層とは何か。それは平均年収の中央値から上下50%の人。具体的に言えば平均所得が5万ドルが中央値なら2万5千ドル~7万5千ドルまでの年収の人が中間層になる。

ニック・ハノーアーという投資家。収入が1000万~3000万ドル、スーパーリッチマンであるトップ1%に所属する富裕層である。世界的な寝具メーカーを所有し、アマゾンに対して最初に投資した投資家としても知られている。

(ニック・ハノーアー)

彼は超リッチマンは意外とお金を使わないことを指摘する。例えば、車も枕も一人が一つしか購入しない。リッチだからといって枕をたくさん買う人もいないし、中間層の100倍の年収だからといって食事の回数が100倍になるわけがない。せいぜい10ドルのランチが10倍の100ドルになる程度である。(それでも十分高価なランチだが)だから一人の金持ちが金を使うより中間層が個人消費の核となると主張する。

「大金持ちが会社を起こして雇用を創出している」というお金持ち擁護のお決まりの主張は間違い。自分も昔はそう思っていた。というか、言い聞かせていた。実際は中間層である顧客が経済活動を作り出している。

◆ 中間層が減少している危険性

1979年以降GDPと労働者の平均時給を比べると経済=GDPは成長してるにも関わらず、賃金は70年代の終わりから横ばいというギャップが発生している。

(経済が成長しているにも関わらず賃金は横ばいで停滞している)

賃金が横ばいになっただけでない。医療費や教育費への支出が昔に比べて増大しているために、出費が更に増えることになり中間層を圧迫した。

また、最盛期には労働者の3割以上が所属していた労働組合の組織率が年々低下している。労働組合の組織率の低下と中間層の賃金の低下はグラフにすると見事に一致している。労働者の賃金交渉をする組織がなくなったのだから当たり前である。

これらの現状により中間層が崩壊の危機に瀕している。

会社が組合を潰そうと組織率の低下に躍起になっているのは、賃金上昇を防ぐことにより商品の競争力を維持するためだ。競争力の維持をする為には主に2つの方法がある。「グローバル化」と「テクノロジーの進歩」である。

◆ グローバル化とテクノロジーの進歩とは

グローバル化の良い例はiPhoneである。iPhoneを買うとお金はどの国に最も支払われると思うか?という疑問を投げかけてみた。70%の人はアメリカ、23%の人は中国に最も支払われると考えていた。

しかし実際は支払ったお金の34%が日本へ17%がドイツに支払われている。一番儲けているのは日本だ。そしてiPhoneを製造している中国にはわずか3.6%しか支払われない。iPhoneという商品の部品はいろんな国から取り寄せた部品で製造されているからだ。中国では組み立てを行っているに過ぎない。

iPhoneはグローバル化の良い例である。米国企業の商品であるにも関わらず海外で製造されているためにアメリカ国内での労働需要が減少した。それによって中間層である労働者の賃金が下降し始めた。

また国内工場も労働者に変わりロボットを採用して中間層から仕事を奪い始めた。アマゾンは売上800億ドルの企業であるが、この規模の小売業なら本来は100万人の労働者が必要になる。しかし、テクノロジーの進歩により実際はオートメーション化されわずか6万人の社員でやりくりしている。アマゾンの膨大な利益の外に、雇用されずに仕事にあぶれた膨大な人々がいる。

グローバル化とテクノロジーの進歩は「アメリカ人から仕事を奪った」というのは正確ではない。正確に言えば「アメリカ人の賃金を引き下げた」のである。

以上のことが原因で中間層が減少し続けている。中間層の減少は個人消費の購買力の低下に繋がるために非常に危険である。

◆ 賃金が減少した中間層の生活はどう変わったのか

90年以降、ダウ平均株価は急激に上昇をし始め同じ会社のCEOと労働者の賃金格差が爆発的に開き始めた。資本主義は悪いことではない。

しかし、中間層の収入が減少し賃金格差が出始めたのであれば、人々は生活レベルを変えることなくどのように生活していったのであろうか。減少した収入をどのように補っていたのか。賃金が低下した中間層の人々は生活レベルを下げなくて済む3つの方法を生み出した。

  1. 女性が働きに出るようになった。それは女性のキャリア形成のためではない。悪化した家計を維持するためである。
  2. 女性の働き口には限界がある。そこで90年代頃から労働時間の長時間化が始まった。「深夜勤務・早朝勤務・残業」中間層の労働時間が伸びた。
  3. しかし、労働時間にも限界がある。そこで考えだされたのが借金である。しかし、世の中担保がなければ借金ができない。中間層が借金できたのは住宅価格が継続して上昇していた為である。資産価値が上がった住宅を担保にしてATM代わりにお金を借りていた。ちなみに2008年に住宅を担保にするこの借金システムも破綻した。

現在中間層は着実に減少しているが、中間層として踏みとどまっている世帯も実際は夫婦共に長時間労働してやっと生活レベルを維持しているという疲れ果てた状況になっている。そう考えると中間層がこのまま維持されていくとは考えにくい。

◆ 富裕層への減税は果たして正しいか

富裕層の税額を減税するという政策も間違っている。アイゼンハワー時代の90%という超高率の課税から税率はどんどん低下している。税率を低くしてもらう代わりにバンバン金持ちにお金を使ってもらおうという戦略である。この近年の政策は間違っている。

まず、これにより税収が減少した。税収の減少、つまり政府予算の縮小は様々な場面で影響が出ている。例えば、70年代から大学の授業料が徐々に高騰した。政府の予算が少なくなってきたため、大学が自前で資金を調達する必要があるからだ。

しかし、そうなると貧富の差が学歴に直結してしまう。以前はカリフォルニアの州立大学なら60年代までならほぼ無料で入学できた。70年代でも700ドル程度。それが今では1万ドルを余裕で超える額となっている。大学に入るのに学力以外に金銭的な力も求められる時代になった。

そして、富裕層は政治家への莫大な政治献金をして自らに有利な法律を創りだしている。金持ちへの減税政策もこれらの影響があるのではないか。

◆ まとめ ◆

中間層はアメリカ経済のコアであり心臓部である。この階層の人たちが減少すると個人消費が減ることになり、個人消費がGDPの70%を占めるアメリカ経済にとっては不況を引き起こす要因となる。健全な社会とは貧富の差が少なく、中間層が多い社会である。

しかし、今日のグローバル化された世界経済を見渡すと現実的に中間層を増大させるのも難しいのも事実である。

ロバート・ライシュ教授の発言を踏まえてまとめてみると、中間層を増大させ健全な経済を維持するためには

1. 企業内での経営陣と労働者の給料のギャップをできる限り埋めること

競争力の維持という名目で労働者の賃金を引き下げているが、それなら逆に経営陣の給料が上昇しているのはおかしなことである。人件費の支出総額を上げろ(大きなパイにしろ)ということでなく人件費の経営陣への割合をもう少し労働者に振り分けろ(パイの分前を変えろ)という話である。この労働者への「分配交渉」を担っていたのが労働組合であった。

労働組合の組織率と賃金の上下の比率は一致している。労働組合を復活させろというのは政治的に共産主義運動と結びつく可能性もあり難しいかもしれないが、同じような役割を果たす組織が必要である。

2. 富裕層に課税を促すことにより税収を増やし、その予算で教育や医療などのサービスに力を注ぐこと

富裕層への減税により税収が減少したことは、そのまま政府予算の減少に繋がり公共サービスの低下をもたらした。それにより中間層は賃金が据え置きされただけでなく以前に比べて医療費や教育費が値上がりしたために相対的に更に生活水準が悪化した。

したがって、フォーレン・バフェットなどが唱える贅沢税の導入が必要であろうということである。富裕層への税金を安くしお金を使ってもらい経済を成長させるという低税率政策でなく、金持ちに高額な税を設定する。その税収を政府の予算をとし医療や教育のサービスを充実させ、その恩恵を受けた中間層を厚くすることによって個人消費を増大させる。こちらの政策のほうがより健全な政策であるといえる。

国際競争力を維持しつつ中間層を充実させることは一見すると矛盾するようなことかもしれないが、不可能なことではない。一部の富裕層への富の集中と税制などを見直すことによって完全とは言えないまでも修正することは十分可能なことだと考えられる。

(2016/08)

 

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