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ルーズベルト欺瞞の日々 ~真珠湾奇襲は察知されていたか~

      2017/05/12

世の中には陰謀論といわれるものは世間に数多あります。例えば最近の話で言えば「9.11自爆テロ」はブッシュ大統領が事前に知っていたにもかかわらず、あえて未然に防がなかったことで有名な話です。理由は戦争を開始できる絶好の口実になったからです。

そして今回の話は陰謀論の中でもよく言われる「真珠湾奇襲攻撃」についてです。真珠湾奇襲攻撃はアメリカの太平洋艦隊の戦艦を4隻沈没、4隻に損害を与えるという未曾有の大戦果でした。しかしこれはあまりにうまく行き過ぎており、ルーズベルト大統領は真珠湾攻撃を知っていたのにあえて黙認したのではないかという陰謀論へと発展します。

その理由としては英独が対決していたヨーロッパの戦いに裏口参戦するために日本を戦争に誘い込んだというものです。実際に日本海軍はターゲットであった米空母を真珠湾で取り逃がします。これが後々に日本にとって大きな不利となったので一部の歴史家は「ルーズベルト大統領は事前に攻撃を知っていたので空母を逃がした」と陰謀論に結びつけて考えるわけです。

つまり今回のお話のポイントは「ルーズベルトは12月8日に真珠湾が攻撃を受けることを知っていたかどうか」ということを検証するお話です。さて、お話を始める前に、素朴な疑問からです。

まず、ルーズベルトが事前に知っていたならば「どうやって攻撃を知っていたんだろう?」という素朴な疑問があります。まさかルーズベルトが真珠湾攻撃を決定した御前会議に出席していたわけではありませんし(笑)

これに対してほぼ全員が情報の出所を「暗号解読」として挙げます。つまり「ルーズベルトは暗号を解読して日本の攻撃を事前に察知できた」ということです。そして暗号解読で攻撃目標がハワイであることを察知したのみならず、機動部隊が移動中であることも無線から探知していたりします。その他、スパイ行為によって情報を入手したと言うこと説もありますが、暗号解読と一緒に検証しようと思います。

さて、それではこの事前に知っていた暗号解読派の意見を集約すると大概がこういった話になります。

  1. 日本の暗号を解読して真珠湾を奇襲する情報を入手した。
  2. 真珠湾に来る連合艦隊の無線から位置を特定し、ハワイに近づいているのを手に取るように把握していた。(厳命されていた無線封鎖は破られていた)
  3. 最悪の被害だけは避けたかったので最重要の二隻の空母だけは湾外に逃がし、旧式の戦艦は湾内に残した。(全艦隊が避難したら事前に攻撃を察知していたことがバレバレになる)なお現地のキンメル司令官にはこの情報を伝えなかった。

という風になっております。それに対する疑問です。

米国側が暗号を解読していたのは確かな話です。日米交渉などの開戦前の重要な交渉は殆ど日本の手の内をアメリカは読んでおりました。外務省の通称パープルと呼ばれる外交暗号はほぼ解読されておりました。

暗号を解読された有名な話があります。それは日本側の最後通牒を真珠湾奇襲後に野村大使がハル国務長官に報告する際にハルはその内容を事前に知っていたという話です。ちなみに暗号と言っても日本は外務省・海軍・陸軍と暗号が別々に分かれております。

ただし日本も暗号解読に手をこまねいていたわけではありません。日本側もアメリカ側の暗号をかなり解読しており、軍部が対米戦争に踏み切った理由の大きな一つにこの「米国側の暗号解読ができていた」ということもありました。(しかし戦争が開始されると即米国は暗号を新たに一新してより堅牢でより高度な暗号としました。つまり日本は米国に泳がされていたのです。)

また、参謀本部の暗号解読も戦時中に進んでおり原爆が投下される前からアメリカ側に異様な長文電報を打電する謎の任務のB29がいるということは把握しておりました。そして、原爆が投下された一週間後に「Atomic bomb」という文章の解読に成功しており、日本も米軍の暗号を解読していたのです。

解読者はあと一週間早ければ、広島・長崎の悲劇を止められたかもしれないと無念であったとか。(この原爆の暗号解読の話を詳しく知りたい方は大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)を読んでみてください )

さて、確かに外務省の暗号は解読されていましたが、実際に真珠湾攻撃を行う「海軍」の暗号解読状況はどうだったのでしょうか。一つの良い例がミッドウェー海戦です。開戦から約半年後のこの戦いの最大の敗因は、日本側の暗号が解読されていたことです。

その時でさえ日本側の目的地が「ミッドウェー」か「ハワイ」か判断がつかない状態で、あえて真水が不足しているという偽情報を流すことで攻撃目標がミッドウェーだと特定したという話は有名な話です。

さて、この話は大変示唆に富んだ話です。まず、アメリカ側の海軍暗号の解析が開戦後半年でそういった状態であったこと。また、この時に海軍は横須賀の芸者であっても次の攻撃目標がミッドウェーだと知ってるほど情報統制が緩い状態であったということです。

それほど情報統制がガバガバな状況でようやく攻撃地が「ミッドウェー」であると判明するというレベルでした。逆に真珠湾攻撃の際には実際に攻撃を行う搭乗員に対してすらも、択捉島の単冠湾に終結し出航後にようやく目的地を知らされる程の厳密な情報統制をとっておりました。

単冠湾に到着した艦隊が最初にしたのは島内の郵便局など無線設備のある場所の封鎖で、島ぐるみの無線管制は真珠湾攻撃まで続きました。

この極端な情報統制の為、外務省といえども攻撃目標が知らされておらず、真珠湾奇襲後に初めて目標を知るといった有様でした。

「運命の夜明け―真珠湾攻撃全真相」によれば、東郷茂徳外務大臣ですら開戦の日時を知らされておらず、開戦4日前の12月4日の連絡会議で軍令部の永野総長にせまり込んでようやくお情けで開戦日が8日だと教えてもらった状態でした。当然攻撃目標がどこなのか知るわけもありません。

余談ですが、それが結局在ワシントン日本大使館の最後通牒の遅れにもつながります。外務省や在外公館は戦争は不可避にしても開戦はもう少し後だと思って油断していたわけです。

したがって外務省の暗号から真珠湾の話が漏れることはなく(外務省は軍部に絶望的に無視されて知らされてないので)、海軍の暗号はミッドウェー海戦の解読状況を考えるとほぼ解読されていないと断定してもいいと思います。

外務省が誰一人知らない状態となると実際にどの程度が真珠湾攻撃を事前に知っていたのでしょうか。連合軍が恐れた五人の提督によると海軍のこの真珠湾攻撃への情報統制は恐ろしいほど徹底されておりました。

先ほどの外務大臣の様に外務省は誰一人知らない状態。それどころか海軍内でも極秘中の極秘で海軍省では海軍大臣以下1~2名ほど、軍令部では作戦課のみ、連合艦隊では司令部の作戦参謀数人と実際に攻撃する一航艦の7~8名の関係幕僚だけが知らされている(というか計画に関わっている)徹底した機密保持がなされている状態でした。

軍令部内でも作戦に関わってない参謀は全く知らされていないという異常とも言える状態です。

実際に攻撃前の準備の段階で飛龍や蒼龍などは燃料不足の懸念から艦内の隙間という隙間にドラム缶を積み込むのですが、草鹿龍之介参謀長はその許可を得ようと軍務局に出向くのですが「危険すぎる」として認可がおりませんでした。

最終的に草鹿参謀長の知り合いが出てきて「これは何かあるな」と感じてなんとか黙認してもらうという有様で、作戦の実施段階で機密の保持を最優先したために準備に支障がでることが多発するという始末でした。

この様な状況で海軍は「ハワイ」や「真珠湾」ということに関する無線暗号を誰にどの様な目的で発したのか。アメリカ側が無線を傍受したならその傍受した無線の具体的な内容を逆に知りたいと思うぐらいです。(ミッドウェーでは具体的に日本側の真水が足りないという無線通信を解読したことが有名です。)

おそらく、陰謀論に同調している方は(特に外国の作家は)海軍内での奇襲攻撃にいたる機密保持の実態を知らない方が述べているのだと思います。おそらく無線で攻撃の場所や日時などを指示しているのだろうと。

しかし、真珠湾攻撃の作戦立案に関わった人達の回想録や一連の関係者の動きや苦労話などを読めば、無線で連絡する必要もないほど少人数の人達が直接話し合って重要事項を決定しております。

単冠湾を出発する前に真珠湾を攻撃に関して知っていた人の数は50~100名程度で多くても200名以下あったろうと思われます。また出発後の連絡も隠密行動をとるために細心の注意を払っております。

有名な「ニイタカヤマノボレ」という暗号も予め固定されていた合言葉であって絶対に解読不可能な暗号文です。アメリカ側が傍受しても台湾の新高山に登る以外に意味を解読できなかったでしょう。この割符は他に陸軍が「ヒノデハヤマガタ」真珠湾攻撃中止の際の「ツクバヤマハレ」など予め固定されていた符丁でしたので、事前に割符を知らなければ解読しようがありません。

攻撃の実施段階になりどうしても無線を使う必要に迫られた場合でさえこれ程入念に無線を行っているのに安易に海軍が真珠湾関連の機密を無線で通信するとは思えません。したがって真珠湾の奇襲を米国側が知っていたと言うのはあくまで陰謀論の範疇でしかない与太話でしょう。

 

2016/04/03

引用した3冊の解説

運命の夜明け―真珠湾攻撃全真相
真珠湾攻撃に関して時系列に作戦の立案から攻撃までを史料に基づき詳細に解説しており、名著。少しボリュームが多いが真珠湾攻撃のことを知りたいならこれ一冊で済みます。

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇
日本軍の暗号や情報など、情報を軽視した日本軍に対して情報参謀の立場から太平洋戦争を語っている。敗戦後に機密保持のため焼却した為に闇に消えてしまった日本軍も割とやるじゃないかと思えるような証言も多い。


連合軍が恐れた五人の提督

五人の内の一人が真珠湾攻撃に関わった第一航空艦隊の草加龍之介参謀長の伝記。真珠湾攻撃の実施において責任者の立場から自身が関わったことを詳細に証言している。

 - 真珠湾奇襲は察知されていたか