ローマ人の物語とは古代ローマ帝国興亡の1千年の歴史を全15巻かけて描き出す、作家・塩野七生氏による一大歴史叙述作品である。1年で一冊のペースで毎年発行され、現在までに11巻もの数を数えている。
私が氏の作品を読んだのは本当に偶々であり、なにげなく2巻の「ハンニバル戦記」を図書館で手に取ったからであった。当時は、ハン ニバルやシーザー等のように「有名ではあるが実際に何をやったのかを知らない西洋人」を軽く一通りにでも知っておこうかなと思っており、この一冊でハンニ バルがある程度わかるなら便利かなと、お手軽な伝記感覚で読み始めたのである。
このハンニバル戦記は西洋人なら誰でも知っているローマとカルタゴのポエニ戦争(日本で例えるなら源平合戦)をハンニバルの視点か ら紀伝体的に捉えており、それらを主題としながらもポエニ戦争全体とその時代のローマ社会を読者にもわかりやすいよう的確に描かれている。なんといっても 臨場感が書面から溢れ出ておりとても紀元前のことを書いているとは思えないような歴史の厚みと面白さがある。
私は当初、その歴史に対する視点と円熟味をもった人物評から「大方、50歳から60歳ぐらいに達した古代西洋史の教授が書いている のだろう。この人は東大のような大学の教授で、きっと日本のローマ史研究の権威なんだろうな。」等と思っていたらなんと塩野氏、女性でした。はっきりいっ て驚きでした。まず、歴史関係に女性がいたこと。更にその女性が最高に素晴しい作品を書いていたことがです。(別に差別するとかそういう意味ではありませ ん。第一、男性が少ない分野に女性が進出して来てくれる事は、その分野に興味を持っている人々にとっては大変喜ばしいことでありますから)
塩野氏の簡単な紹介をしますと現在イタリア在住で、大学卒業後からしばらく遊学をしていたらしいです。代表作は、ベネチィア共和国の物語やルネッサンス 関連・それにローマ人の物語など、イタリアの歴史に関係するものが殆どです。私はこのハンニバル戦記以降に1巻から読み直しており、ややローマの歴史にお いて知識過剰気味になっております。具体的にどれほど過剰気味かと申しますと、塩野氏は2巻ハンニバル戦記の書き出しにおいての但し書きにおいて「日本の 高校の世界史の授業においてこの本1冊を丸々使った分量は、教科書においてはたったの5行で説明されている」と明記しており、まあたった5行ほどの歴史的 事実を1冊に膨らまして読んでいるわけであることから、どれほど知識過剰かはわかっていただけると思います。
ちなみに教科書の話題についてもう一つ。この作品の4巻・5巻の主役を彩るカエサルについてイタリアの高校の教科書はこのように表現をしております。 「指導者に求められる資質は、次の五つである。知性。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意思。カエサルだけが、このすべてを持ってい た。」 高校生の歴史の教科書にこの様な文章を載せているんですね。こんな素敵なことをされてしまったら日本の世界史の教科書は形無しですよね。これも遥 かなるローマの為せる業なのでしょうか・・・
おしまい