産業革命以降、世界の人口は爆発的に増え続けており、現在の世界人口は80億人を突破しています。そのうちの38%が中国人かインド人です。わずか2国で世界人口の4割弱を占めているというのも驚きですが、2023年に長年世界一だった中国を抜き、インドが人口世界一になったのもまた驚きです。
こういった超大国の話を聞くと想像するのが難しいかもしれませんが、実は世界ではこれらの大国よりも小国の方が数が多いのが実情です。
例えば、世界の平均的な国の人口は850万人です。これを現実世界で探すとスイスと同じになります。スイスと言えばアルプスに囲まれた小国というイメージですが、世界の国の半分はスイスより人口が少ない国家になります。
現在、国連に加盟している国の数は193カ国、そして台湾やバチカンなど加盟していない未加盟国家も含めると約200国ほどになりますので、100カ国近くが人口850万人以下の国々になります。
この小国に関して、アルメニア(イランとトルコの間に挟まれ、人口280万人の国)の元大統領であり学者でもあるアルメン・サルキシャンが興味深い提言をしているので、彼の発言を参考にしつつ小国について話してみたいと思います。
小国の定義
そもそも「小国とは何か?」というと、サルキシャンの定義によると2つあり、1つは人口が少ないこと、そしてもう1つは国土が狭いことです。先程、人口の平均的な国をスイスとしましたが、同じように国土の平均を出すとちょうどポルトガルになります。つまり、世界の国の半分以上はポルトガルより面積が小さい国です。
サルキシャンは定義として人口1500万人以下の国を小国としましたが、ここではより分かりやすくするために人口1000万人の国を小国としたいと思います。さて、それでは具体的に小国を見ていこうかと思います。
人口1000万人前後の国
- ベルギー
- スウェーデン
- ギリシャ
- ドミニカ
- ボリビア
- トーゴ
- パプアニューギニア
欧州、中南米、アフリカ、太平洋と各地から抽出してみましたが、存在感がある国もあれば、場所がどこにあるのかあやふやな国もあるかと思います。ただ、いずれも大国ではないですね。世界にはこれらの国以下の人口1000万に満たない小国が100カ国近くあります。アメリカや中国という世界の覇権を争うような超国家でない国々です。
欧米人の視点だと、世界は大国間の激しい競争や米中対立に目が奪われていますが、そういった世界とは違った世界があり、現実的にはそういった国々の方が数が多いというのが実情です。
これらの国は、我々が普段ニュースで目にする大国間同士の覇権争いや勢力争いからは大きく距離を置いています。特に南米やアフリカ南部などの南半球の国は地理的に世界の潮流から外れているので、ゴタゴタに巻き込まれることなく人々は生活しています。
スポーツで言えば、試合をするプレーヤーではなく試合を眺める観戦者、傍観者としての立場と言えます。アメリカやロシア、中国、EUと違い、非主流者として小国としての生き方をしながら生活している人達が世界には大勢いるのだということです。
小国が存在できる理由
さて、これら小国ですが、近代に入る前までは多くの小国は帝国のような大国に併合されるのが常でした。サルキシャンが「サメが近くの小魚を何気なく食べるように」と表現したように、歴史的にみれば小国は大国によっていつ消えてもおかしくない非常に不安定な立場でした。
そういった小国が現在数多く存在できるようになったのは、近代に入り国家主権が尊重されるようになったことが非常に大きいです。国際連盟、そして国際連合といった国際的な組織が登場し、加盟国同士の国家主権を尊重するようになりました。その結果、多くの小国が存在することを許されるようになりました。
国連誕生当時、小国の中でも特に人口が少ない100万人以下の国はルクセンブルクとアイスランドのわずか二カ国のみでした。しかし現在はそういった国が40カ国も存在していることを考えると、小国の存在が容認されやすい環境になったと思います。
ただ、ロシアと国境が近い場所に位置する国、とりわけ黒海周辺のジョージアやモルドバは昔の帝国とその周辺国の状態に近いのが実情なのかもしれません。
同じ様な立場であるバルト三国は早々にEUやNATOに参加することによって、EUという大国に所属して生存する道を選んでいます。こうしてみると、世界にはロシアのような昔の振る舞いをする国が少なくなってきているとも言えます。
これからの小国の生き方
私はもし小国として生まれたのであれば、「のほほん」と平和に生きていくのもありなのではないかと思いますが、多くの人は「何不自由なく豊かに暮らしたい」と思うのではないかと思います。「山椒は小粒でもぴりりと辛い」ではないですが、存在感のある小国を参考にして、どうすれば豊かに生活していけるのかを見てみたいと思います。一応、人口1000万人未満を基準にピックアップしてみました。
- UAE(960万人)ドバイの繁栄
- イスラエル(930万人)ユダヤ人国家・高い技術と情報力
- スイス(890万人)永世中立国・世界機関の本部
- シンガポール(610万人)金融・ビジネスセンター(世界3位)
- 香港(750万人)同じく金融センター(世界4位)
ある程度、何かしら特化している国が多いですね。
小国は単純に人口が少ないので、労働力や国内市場などが大国に比べて劣っているため、何かしらに特化するのは必然なのかもしれません。
ただし、弱点だと考えられる人口に関して、現在はAIなどが登場して純粋なマンパワーが必要なものが少なくなってきているので、小国として以前より立ち振舞がしやすくなったと思います。
例えば、第二次世界大戦では独ソ戦で数百万人という兵士が東部戦線で血みどろの戦いをしましたが、現在の戦争は当時と様相が多少違っています。例えば、空の戦いの場合に必要な制空戦闘機のパイロットは多くても1000人ほどですので、人口100万人の国も1億人の国もパイロットの数で悩むことはありません。パイロットの数どころか、そもそもパイロットがいない無人航空機が登場しています。
土木建築にしても、万里の長城を建設するのに数百万人(と大量の死者)が必要でしたが、現在であれば重機を使って少ない人手で建設できるので、そういった意味で以前に比べて人口の差が決定的な国力差ではなくなりました。むしろ、マンパワーよりハイテク戦闘機やハイテク重機を開発できる資金力や技術力の方が重要になってきております。
日本も江戸時代は人口の85%が農家でしたが耕運機や田植え機などの登場のお陰で現在の専業農家の人口はわずか1%である116万人ほどです。
高度情報化社会を迎えて技術力や情報力が何よりも重要視されることを考えると、情報においては世界的な情報機関であるモサドを要し、技術においてはインテル、Apple、ソニー、Microsoft、Googleなどのハイテク・半導体関係の多国籍企業500社が国内にあり、研究開発センターを運営してるイスラエルは小国として進むべき道を他の国々に指し示しているのかもしれません。
小国よりも存在感がある企業や個人
現在は一つの企業や一人の個人が非常に力を持った社会です。例えば企業としてはアップルやグーグルという1企業だけで一つの小国が運営できる規模、また会社より更に小さいイーロン・マスクといった個人の力だけで、EVのテスラ(Tesla)、SNSのX(旧Twitter)、宇宙船のスペースX(SpaceX)などの会社を経営して世界へ影響を与えることが可能になってきています。
ですから個人や一企業が活躍できるように一国家が活躍するというのは非常に現実的な反面、国が貧しい分だけそういった高度な人物がいない人材難であるともいえるのが小国の弱点でもあります。
湾岸戦争の舞台になったクウェートのような人口400万人の小国でかつ原油が湧くような国だと有り余るオイルマネーを活かして教育などに投資して高度な人材を育成して世界的に尖った国として存在感のある国になると誰もが思うかもしれません。しかし実際には潤沢なオイルマネーを公共施設や社会福祉に回すことで国民が無料で豊かな生活ができる為に無理して勉強をする必要がなく、世界レベルで比較するとむしろ教育水準が平均より低かったりするなど色々と難しいようです。
ただ私が最初に言った「のほほん」とした生活を過ごしているようなので(原油が湧く限り国民がそれでいいのであれば)これはこれで良いんじゃないかとも思います。
南半球の国々はヨーロッパ小国のように地政学的に大国に挟まれて国家存亡の危機に瀕したり、キリスト教・イスラム教・ユダヤ教などの宗教的な争いに巻き込まれる可能性がないため内戦など自ら争いをしなければ戦争のリスクが極めて低く、大国ではない代わりに自らが望めば平和の生活を送れることが1番のメリットなんじゃないかと思いました。