当ブログはこれまで時間に制約されない歴史などの普遍的なトピックを扱ってきましたが、その一方で世間で大きな話題となった時事的なニュースをこれまで扱ってきませんでした。そこで今回は歴史や政治・軍事などを扱うブログが旬の話題をテーマとして文章を書いたら一体どうなるのか?という新しい試みをしてみたいと思います。
WBCを見て思ったこと
2023年3月22日、野球の日本代表はWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)において3大会ぶり3回目の優勝を果たしました。テレビの平均世帯視聴率がなんと42.4%という驚異的な数値でした。これは家族や友人などと一緒に見ていた場合を考慮に入れれば実質的には国民の半数以上の人が試合を見ていたのではないかと思います。
多くの国民が注目したまさに国民的なイベント、国威をかけた戦いであったと思います。スポーツの国別対抗の代表戦について一般的にはよく「近代に入り戦争が野蛮なものとして禁止されるようになった。そのためスポーツの国際試合が国と国との戦争の代わり、つまり「代理戦争」としての役割を果たすようになった。」などと言われたりしますが、WBCを見ていてまさにそのような印象を受けました。
そんな中WBC関連のニュースを見ていて代表選手の発言で気になることが2つあったのでその点について言及してみようかと思います。いずれも偶然なのか分かりませんがハーフ選手の発言になります。
1. 戦争と国別対抗戦
戦争に行くわけじゃない。気負いすぎ(ダルビッシュ有)
こちらはWBCの開催前に2月の上旬に日本代表のキャンプに合流したダルビッシュ選手の発言です。リンクが切れるかもしれないので複数貼っておきます。
この発言は日本に帰国して代表に合流したダルビッシュ選手のセリフです。日本国内のNPB(プロ野球)に所属する選手にとってはWBCは最重要な試合であるかもしれませんが、MLBに所属している海外選手にとっては重要なのはWBCでなくメジャーのレギュラーシーズンです。
特に前回や前々回の大会では日本代表にメジャー組は主力が参加しませんでしたし、メジャーの有力選手もシーズンを優先してWBCに参加しませんでした。そういった視線を持つダルビッシュ選手からしたらNPB選手の色々と背負った姿をみて思うところがあったのではないかと思います。
現在スポーツは放映権料が高騰しており1兆円を超えるような超巨大産業になっております。その一方で例えサッカーのW杯の代表の日本戦であったりWBCの決勝戦であったとしても、もし地震があったり大雨が降ったりした場合は中継が中断され災害ニュースが優先されるようにスポーツはあくまでスポーツです。多くの国民が必勝を祈願する国民的なイベントであってもそこで負けても戦争や災害と違って直接人が亡くなるわけでもありません。
注目度が高ければそれに比例して社会的な責任も高くなるので代表選手が受けるストレスやプレッシャーは私なんかでは想像できないような相当凄いものだと思います。かといって負けたからといって選手が「切腹」して責任を取るわけでもないのでダルビッシュ選手が言うように「気負いすぎ」というのは言い得て妙かと思います。
土日に河川敷でおっちゃん達がやってる草野球の超々々豪華版がWBCの決勝なんです。でもその試合一つで数百億円といった巨額の収益が発生し試合結果によって大会に関わった人々の今後の人生や生活を大きく左右するのです。たかがスポーツ されどスポーツということを考えさせられてしまう出来事でした。
2. Baseball と 野球を体験して
二人目はアメリカ生まれの侍、ヌートバー選手です。こちらは日刊スポーツが大会優勝後に入手した独占手記からの引用になります。
日本のファンを見て一番驚いたのは、応援する時に、どれだけ彼らが一体感を持っていることか。僕の父にも伝えたんだ。どれだけ選手に親しみを持って、全てのプレーに注目しているか。(中略) 日本人は野球が好きだということは知っていたけど、フィールドでこういう経験ができて、毎試合がすごく特別だった。僕の母は野球が好きで、野球に対して情熱を持っている。それがなんとなく理解できたよ。 (ラーズ・ヌートバー)
「日本でプレーできたことは a life changing experience (僕の人生を変える経験になった)」と語るヌートバー選手でしたけど、WBCに日本代表としてプレーしたことは文字通り彼の人生を大きく変える出来事だったでしょうね。米紙に「セントルイス(カージナルス)の一選手からわずか数ヶ月の間に世界的に有名な選手になった」と書かれたのも大袈裟ではありません。
そんな彼の独占手記にアメリカのBaseballしか知らない彼が初めて日本の野球を体験しそれについて言及している箇所があります。
近年アメリカでは野球の人気は下降気味です。ベーブ・ルースがいたころの野球はそれは花形の人気スポーツだったでしょうがその後アメフトやNBAの人気が上昇し現在は人気を獲得しているとは言えにくい状況です。(日本でも近年サッカーと人気を二分するようになりましたが・・・)
母親の久美子さんが国民的スポーツである日本の野球の情熱そのままで baseball に触れているのでbaseballしか知らないヌートバーにとっては母親から「日本では野球は国民的な人気スポーツだから」ということを聞かされていてもやはり母親の熱意を理解できなかったのだと思います。
それが今回のWBC日本ラウンドで日本に滞在し、試合を通して選手や球場で応援してくれるファン、そしてメディアでの日本代表の扱いを通してこれまで不思議だった母親の野球への情熱が「なんとなく理解できた」という言葉で独占手記を締め括っているのはなんとも叙情的だと思いました。
これまで数々の助っ人外国人選手が日米の野球の違いについて語ってくれましたが、外国人としてではなく日本代表という日本人と同じ視点から語られたことはこれまでなかったのでとても新鮮だと思いました。また次のWBCでも日本代表の切り込み隊長として活躍を期待しております。
以上印象に残ったWBCの出来事でした。もちろん大谷選手対トラウトのまるで漫画とも思える対決や最後にトラウトに投げたエグいスイーパーなど印象に残ったものは沢山ありましたけど今回はこの2つの紹介となります。