米国のIT富豪が巨額の寄付をする理由
Facebookの創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏が、450億ドル(約5兆5000億円)を慈善事業に寄付するという話がニュースになりました。これは資産の99%にあたるそうで全財産を寄付したといっても過言ではありません。
娘誕生のFacebookザッカーバーグCEO、5兆5,000億円超の株式寄付へ
IT長者の寄付といえばご存知マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が同じように世界最大規模の慈善財団であるビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立し3兆円以上の私財を寄付しています。
こうやって見るとビル・ゲイツにしろザッカーバーグにしろアメリカの富裕層と言うのは尋常じゃないぐらい金持ちであると共に尋常じゃない金額の寄付をするものですね。富豪による寄付は現在だけの話ではありません。例えば昔であれば鉄鋼王のカーネギーなどが多額の寄付をした慈善事業家として有名です。
(カーネギーが建てたシラキュース大の図書館。彼は全米に無料図書館を建てまくった)
ただ、私財を投げ打つ彼らの行為に対して称賛の声があがる一方で、彼ら大金持ちには一緒に付いてまわる話があります。それは寄付などの慈善事業は課税控除の対象となるために節税対策で寄付を行っているのではないかと言うことです。簡単に言えば巨額な相続税の税金対策のために慈善財団を設立して税金逃れの隠れ蓑にするということです。
★ザッカーバーグが5兆5000億円寄付する本当の理由(週刊ダイヤモンド)
寄付の報道と一緒に節税の実情を書かれることも多いので日本人の間ではアメリカの大富豪の寄付は「どうせ税金対策でしょ!」と思っている方も多いことだと思います。
確かに巨額な相続税を支払うことを考えると、財団を立ち上げて活用した方が将来子供が手に入れられる財産は多いようです。そう考えるとアメリカ人の富豪達の寄付は慈善行為に見せかけた節税行為で、全ては金儲けのために行っている営利活動なのでしょうか。そこで今回はアメリカの大富豪の寄付は節税目的なのかそれとも別の意図があるのかに注目してアメリカの寄付文化について考えてみたいと思います。
アメリカ人の慈善事業や寄付行為の根底にあるもの
アメリカ人の富豪が寄付を積極的に行うのは節税という営利的な側面もありますが、その行為の根底にはキリスト教による宗教的な価値観があるからです。古くは中世の教会による「十分の一税」などに代表される様に歴史的に長い間寄付をする習慣が社会全体に根付いています。
キリスト教の聖書の中には貧しい人々に対して寄付を促す文面を至る所で簡単に見つけることができます。例えば新約聖書の「コリント人への第二の手紙」の9章には
『ひとりひとり、いやいやながらでなく、強いられてでもなく、心で決めたとおりにしなさい。神は喜んで与える人を愛してくださいます。』
という寄付に関する言葉があります。
- 寄付をすることが神に愛される行為であること
- 寄付は他人に強制されて行うものでなくあくまで自発的に行うものであること
こういったことがキリスト教において大切な教えとなっております。
したがってアメリカでは貧しい人も豊かな人も分け隔てなく教会や慈善団体に寄付をします。また寄付も金額の大小ではなく貧しい人は貧しい人なりに、金持ちは金持ちなりに自分の財産に見合った金額の寄付をすることが大切なことだとされております。
この様に税金制度が確立される遥か以前からキリスト教の社会では文化的に寄付という行為が当たり前のように行われており、決して節税の目的のためだけに寄付が行われているのではないのです。
他者に対する献身性
このキリスト教の困った人への救いの手を差し伸べる文化、他者への献身性は寄付という金銭以外でも米国社会では多くの場面で見受けられます。
一例をあげればボランティア活動の様にお金ではなく無償で働くことによって他者への救いの手を差し伸べることです。ホームレスへの炊き出しの手伝いから、洪水や地震などの自然災害の被害者の救援など様々な奉仕活動などを行いますが、寄付と同じくあくまで強制ではなく自発性が求められます。
また、チャリティーなどの福祉活動も有名人の呼びかけによる伝染病や貧困の撲滅などの大掛かりのものから子供達が通っている学校でブラスバンドの楽器を買うための費用やサッカーやバスケットのボールやゴールなどの備品を買うために父兄がバザーを開催して費用を捻出するなど金額の多寡に関係なく気軽に活動が行われます。
これら一連の活動はその根底に一貫してキリスト教による他者への救済の文化的側面があるといえるでしょう。
(ちなみにアメリカではボランティア活動での交通費などは税金の控除の対象になります。また寄付はお金だけでなく古着などの中古の商品(使わなくなったゴルフクラブや自転車、いらなくなった冷蔵庫)でもOKであるし、それらも税金の控除の対象になるということもお伝えしておきます)
具体的にどれぐらい寄付は偉いことなの?
それでは寄付は実際に人々の間でどのように社会で行われているのでしょうか。具体的な例を話してみたいと思います。
今アメリカで「アンダーカバーボス」と呼ばれる超人気のテレビ番組があります。リアリティーショーと呼ばれるジャンルで視聴率全米一位を獲得した人気番組です。日本でも人気があるので当然放送されていて衛星放送のWOWOWで見ることができます。
この番組は社長が身分を偽って会社に体験入社して従業員目線で現場の実情をチェックするという番組です。ちなみにアンダーカバーという単語には潜入調査という意味があります。
この番組では潜入調査が終了後、水戸黄門ではないですが、社長が正体を明かして出演した従業員達に対して日本円で数百万円単位で大盤振る舞いのボーナスをあげるのが恒例です。
例えば、父親がガンで入院したいけどお金がなくて入院できない従業員には治療費として200万円を支給したり、金銭的な理由で大学進学を断念したスタッフには働きながら大学が卒業できる様に授業料500万円を会社が全額負担して支払うといったことをします。
また、通勤でバスを使っている従業員には新車を支給するなり、天災でマイホームが壊れた家庭の場合にはなんと家一軒をまるごとプレゼントするなど金銭以外の現物の支給なども行われます。
そんな中で日本ではまずお目に書かれないボーナスが「寄付」です。例えば若い頃軍隊にいた経験のある従業員には社長が彼の名義で150万円を退役軍人会に寄付したり、また難聴の障害を持った従業員には彼女名義で聴覚障害者学校に100万円の寄付をするといった感じです。
個人的には「その100万円を寄付じゃなくて従業員本人にあげた方が喜ぶんじゃない?」と思ったりするのですが、自分名義で寄付をしたことを知った従業員は泣いて喜んだりしています。
少し長い話になりましたがこの話はいくつかの点を示唆します。まず、アメリカに於いては貧富の差に関係なく誰もがみんな寄付をするということ。(本来お金を貰うべき立場の人達も寄付をしています)また、寄付という行為が社会に貢献し尊敬されたり敬意を持たれる名誉ある行為であるという価値観が国民の間で共有されていること。そして寄付した本人がそのことを誇りに思うことなどです。
結びとして
この様に、アメリカにおける寄付文化は表面的には節税としての税金対策、そして根底にはキリスト教による他者への救済の精神があるといえると思います。日本とアメリカでは文化や社会的な構造が違うために一概には言えませんが、こういった寄付やボランティアといった慈善活動や奉仕活動への取り組みは(わざわざ寄付を促進するために税制などを変える必要はないですが)アメリカを見習ってみたらどうでしょうか。