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~ヒストリアイ~

現代でも全く色褪せない孫子の格言

投稿日:2022-06-14 更新日:

◆「孫子」実は純粋な軍事書

孫子の兵法でおなじみの古典的名著「孫子」は孫武が執筆した紀元前500年頃から現代まで2500年もの時代を超え読み続けられてきた兵法書のバイブルです。

軍事の大家として「東の孫子」「西のクラウゼヴィッツ」とよく比較されますが、クラウゼヴィッツの「戦争論」が1832年に出版されたことを考えると両者の時間的な差は一目瞭然です。

この孫子の具体的な内容というのは皆さんご存知でしょうか?ビジネス向けに「ビジネスに活かす孫子の兵法」とか「孫子に学ぶ最高のビジネスリーダーの条件」といったタイトルの雑誌や本をよく見かけたりします。

タイトルだけ見ると「孫子は著書内でビジネスにも応用できるような普遍的な内容を語っている」と誤解するかもしれませんが実際はそうではありません。ビジネスで応用できるように語っている部分もありますが、全体を通して書かれているのは純粋に軍事的な内容です。

例えば「上流で雨が降ったのなら渡河をするのは危険だからやめろ」といった話や「火を使った攻撃法は5種類ある。もし火攻めをするなら空気が乾燥した時期に行った方が効果が高い」といった感じです。

私も初めて孫子を読んだ時はビジネス書にも活かせるような普遍的な内容が書いてあるとばかり思ったので「あ、これ純粋な軍事書なんだ・・・」と驚いたことを覚えています。

ただそれでも実生活に活かせることも書いてありますし、読んで役に立つ内容であることは間違いありません。むしろ孫子の兵法の核となるエッセンスの部分は2500年も前に書かれたにも関わらず現代でも色褪せずに通用します。

そこで今回は私が孫子を読んで「え?これが本当に2500年前に書かれた本なの?」と個人的に驚いた内容を紹介したいと思います。それだけだと寂しいので加えて雑誌や本でよく紹介されてる有名な格言もついでに紹介したいと思います。

◆現代でも通用する孫子のエッセンス

まず私が読んで驚いた部分からです。大きく二つに分けることができます。

  1. 戦争において最も重要なのは経済である
  2. 戦争において情報は武勲よりも価値がある

まずは①の戦争と経済との関係について見ていきましょう

1.戦争において最も重要なのは経済である

巷に出ている孫子の兵法の解説書はリーダーシップや人心掌握術など組織の運用に関して書かれていることが多いのであまり言及されていることはないかと思いますが、孫子は戦争を純粋な軍事面だけでなく経済的な側面からも捉えていることです。

実際に孫子の中から抜粋すると

「兵は拙速を聞くも、未だ巧久をみざるなり(第二 作戦篇)」

という言葉があります。意味は「戦争は多少問題があってもなるべく早く終らせるべきである。戦争が長引いたけど結果的にそれが良かったということはない」という発言です。孫子による解説では

いざ戦争をすることになれば戦車など千台、兵数で言えば十万人もの人員を動員することになる。両軍が決戦のために対陣すればたとえ戦わずに死者が出なかったとしても毎日膨大な物資を消費する。その結果支出が増え経済は疲弊する。したがって万全な勝利を狙って長期間戦うよりも多少失敗があってもなるべく早く相手を攻略すべきである

と解説しております。「そもそも戦争が長期化して国家の利益になったことは未だ嘗てあった試しがない」とまあ結構な手厳しい言い様です。

こうした経済的な観点から戦争を論じることは孫子の中で散見されて

「故に兵は勝つを貴びて、久しきを貴ばず」
→戦争は速やかな勝利こと最高であり長期戦は高く評価することはできない

などと繰り返し述べております。また孫子の格言として非常に有名な「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」という言葉がありますが、これも

「実際に戦闘を行えばどれだけ完勝しても多少の被害がでる。できるならとにかく戦闘は避けるべき」という意味としてよく解説されていますが、そういった視点だけではなく「兵士は動員するだけで財政的な負担となる。外交や調略を用いて相手を封じ込めることができるのであれば、財政的な観点からもその方がいい」という風に経済的な視点からも捉えることができるのかと思います。

現代の戦争は総力戦であり「軍事力=技術力=経済力」のような状況ですので我々は戦争における経済の重要性を当たり前のように知っておりますが、経済的に豊かな方が必ずしも戦争に勝つとは限らない中国において(例:金→北宋、清→明)経済について着目していたのは慧眼であると言わざるをえないです。

特に軍人や武将は「いかに相手に勝つか?」という軍事面のみをひたすら考えていて、金勘定の経済には疎いイメージがあるのでなおさらですね。

孫子全体を通して「軍隊はたとえ戦わなくても動員するだけで財政的な負担になる。また兵站を維持するのも決して無料ではない。輸送路の安全の確保(特に敵陣内)や実際の輸送にも莫大な費用が掛かっている」というスタンスで書かれており、純粋な軍事書にも関わらずこの時代に既に経済的な視点を導入していたのには驚きました。

2.戦争において情報は武勲よりも価値がある

こちらは情報や間諜(スパイ)など現代風に言えば「インテリジェンス」に関する話です。孫子は「用間篇」の中でいかに情報が大切であるかを力説しています。例えば

「三軍の親は、間より親しきは莫く、賞は間より厚きは莫く」
→全軍においての将軍以上に間諜への恩賞を最も厚くすべきである

と合戦で実際に活躍した武将以上に情報提供者に対して恩賞を与えるべきであると言及しています。さらに踏み込んで

「爵禄百金を愛しみて敵の情を知らざる者は不仁の至りなり」
→国家の命運を左右する重要な決戦を前にして戦いを有利に運ぶ情報を提供してくれる間諜に対して爵位や俸禄を与えるのを躊躇してその結果情報を得られないのは不仁である

と情報への対価を渋る吝嗇な姿勢を激しく非難しております。こちらの格言はちょうど良い具体例が日本にあるのでご紹介します。

日本の戦国時代の合戦では一般的に敵の大将首を討ち取った人が合戦中最大の恩賞を得ておりました。「今は足軽だけど今にみてろ~敵の大将の首を討ち取って出世していずれは侍大将になるんだ~」という風な感じが一般的な価値観ですよね。

そんな中で孫子の格言通りのことを実行した戦国武将がいます。それは織田信長です。織田信長の合戦の中で「桶狭間の戦い」という有名な合戦があります。有名すぎる戦いなのでここでは詳細を省きますが、この戦いで信長軍は今川義元の本陣である桶狭間を奇襲して見事義元の首を討ち取ります。

この場合、恩賞の順番は戦国時代の常識であれば

一位 義元の首を討ち取った毛利新助
二位 義元に一番槍を刺した服部小平太
三位 義元が桶狭間にいることを報告した簗田政綱

となります。しかし実際の恩賞の順番は逆で

一位 簗田政綱 (3000貫)
二位 服部小平太(1000貫)
三位 毛利新助  (500貫)

という順番でした。

つまり信長はいかに情報や諜報が重要であるかをよく理解していたと言えるかと思います。これを見ると信長が戦国時代の覇者になるべく怒涛の快進撃を続けられた理由が分かる気がします。

450年前の日本の戦国時代ですら信長の情報の取り扱いに対して特筆されているのですから、その2000年前に既に言及していた孫子って一体・・・・とただただ驚嘆の一言です。

◆孫子の兵法で有名な格言

さて、最後にいろんな書物やネットなどでよく使われている孫子の名言をご紹介します。知ってる方はさらっと読み飛ばせるかと思います。

普段の会話にさり気なくこういった格言を含んだりすると「こいつ意外とできるな」と相手を警戒させたりできるので使ってみて下さい(笑)

・敵を知り己を知れば百戦してあやうからず

多分ぶっちぎりで一番有名な孫氏の言葉だと思います。相手の力量を正確に評価しかつ自分のことも客観的に評価できれば戦いに負けることはない。キーワードは「己を知る」いかに自分を客観的に分析して評価できるかですね(笑)

・兵は詭道なり

戦いとは騙し合いである。「詭道」とはトリックとか騙すとかそういった意味の言葉です。勝つためには正々堂々と正攻法で戦わなくてもOK、夜襲なり裏切り調略なり使える手段は何でもすべきですね。

・百戦百勝は善の善なるものにあらず

この言葉には続きがありまして「戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」と続きます。最初の経済の部分でも紹介しましたが、実際に戦争をすればどんな完勝でも被害が出ます。戦わずに屈服させるのが一番いいよという話です。

身近で言えば冷戦時代のアメリカはソ連を相手に戦うことなしに打倒しました。ソ連を封じ込めたことで米ソ間で実際の戦闘による死者を出すことなく被害を未然に防げたのは孫子の兵法通りだと言えます。

その他、ビジネスなどでも使えるワードとして

・戦いは正を以って合し奇を以って勝つ
・善く戦う者は人を致して人に致されず

などの格言が挙げられると思います。

「人を致して」というのは「自分の思い通りに動かす」つまり「主導権を握る」っという意味です。いくさ巧者は物事を自分のペースで終始リードして主導権を相手に決して握らせないみたいな意味です。

取引先との重要な交渉で上司に対して「今日の取引は今後のことも考えてこちらが主導権を握れる様に最初にガツンと一発やった方がいいです。孫子の兵法に「人を致して人に致されず」って言うように相手のペースで交渉を進められると後々にも影響を与えて面倒なことになりそうです。」とか使うといいんじゃないですかね。

有名なセリフはこんな感じです。

あらためて振り返ると2500年前に戦争における経済と情報の重要性を意識していた孫子、恐ろしいですね・・・・

(注:孫子というのは個人というより儒家や墨家の様な軍事を専門にする兵法家集団で「孫子」の実際の作者は孫武、または孫臏の二人です。現在では近年(1972)の発掘調査により孫武(孫子13篇はほぼ彼の作品)と孫臏のそれぞれに兵法書が存在することが確認されております)

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